肩関節脱臼とは|身体の中でも頻繁に脱臼しやすい肩関節
肩関節脱臼は、主要な関節脱臼の約50%を占めると言われ、その中でも特に前方脱臼が一般的です。肩は構造上、不安定な関節であり、身体の中で最も脱臼しやすいと言われます。ラグビーやアメリカンフットボール、柔道などのコンタクトスポーツでは、後方への強い衝撃によって肩関節脱臼がよく発生します。
肩関節脱臼とは
肩関節の構造
肩関節脱臼
肩関節は、前述のように不安定な構造で、身体の中で最も脱臼する関節と言われています。スポーツにおいては、肩関節に外転、外旋などの強い外力が加わることで、上腕骨頭が関節窩から外れます。脱臼の多くは、上腕骨頭が身体の前側にずれて外れる前方脱臼です。神経損傷や、関節唇、関節窩、または上腕骨頭に関連する損傷、さらに骨折などを伴うことがあります。
初回の脱臼は挙上した状態(手を上げた状態)で後方への強い外力によって発生することが多いですが、2回目以降は骨、靭帯、関節包(かんせつほう)などの摩耗により、初回よりも弱い外力で脱臼を起こすようになります。この傾向は回数を重ねるごとに顕著になり、比較的軽微な外力でも再脱臼(反復性脱臼)しやすくなります。
肩関節脱臼の症状とは?
急に強い痛みが発生し、腫れや下図のような変形が見られます。また、ばね様固定による運動制限(患部を内側に動かすと、ばねのように元の外転位に戻ろうとすること)が起こります。さらに、血行障害や感覚障害、神経麻痺(肩や指のしびれ)といった症状が見られることがあります。
肩関節脱臼の診断は?
X線検査で関節面の適合性を見ます。最近ではCTやMRI検査によって、骨軟部組織の損傷程度を把握しやすくなりました。この際、再脱臼を起こしやすい合併症(ヒルサックス損傷、バンカート損傷、骨性バンカート損傷)が見られないかも確認します。
ヒルサックス(Hill-Sachs)損傷:上腕骨頭と関節窩の衝突により、上腕骨頭の外側後方で陥没骨折が生じます。ヒルサックス損傷を伴うと再脱臼しやすくなります。
バンカート(Bankart)損傷:関節唇が関節窩から剥離する状態です。関節唇は肩関節の不安定さを補う役割があるので、関節唇が損傷することで再脱臼しやすくなります。
骨性バンカート(Bankart)損傷:関節唇が関節窩から剥離した際などに、関節窩の骨の一部が剥離する状態です。関節窩は、上腕骨頭の受け皿となりますが、その一部がかけてしまうことで不安定性が増し、再脱臼が起きやすくなります。
以上の合併症があると、脱臼を繰り返す反復性肩関節脱臼となります。
肩関節脱臼の治療とリハビリテーション
肩関節脱臼の治療
治療には、保存療法と手術療法の2種類があります。初めて肩関節脱臼した場合、まず徒手整復を行い、その後、肩関節を固定するためにデゾー固定という方法を3〜4週間行います。この方法では、腕を下げて肩を内側に回した状態で三角巾などを使って写真のように固定します。これにより、肩関節の修復と安定を図ります。初回の脱臼時にしっかりと固定し、適切なリハビリを行わないと、再脱臼しやすくなりますので注意が必要です。
再脱臼を起こしやすい合併症がある場合や、反復性肩関節脱臼の場合には、手術療法が採用されます。コンタクトスポーツに復帰するには、手術後約6ヵ月の療養が必要と言われています。
肩関節脱臼のリハビリテーション
受傷後は、まず手や指を動かす運動から始め、損傷部位に負担をかけないようにします。1週間ほど経過したら、肩関節の内転・内旋位でのアイソメトリック・エクササイズ(関節を動かさず、一定のポジションをキープしたり、壁や一方の手で負荷をかけたりすることで、等尺性筋収縮運動を促すトレーニング)を始めます。約3週間が経過したら、腕を90度まで上げる範囲で軽い運動を行います。
脱臼後のリハビリでは、壁や床を背にして、手が身体の前にある状態で上肢のトレーニングを行うことが重要です。受傷動作となった肩関節伸展・外転・外旋を伴う運動は、リハビリの最終段階(受傷後約6週間)まで行わないようにしましょう。
参考文献
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY』ZAMST
- 『対策HANDBOOK 肩・ヒジ・手首・指の痛み』ZAMST
- 医療情報科学研究所 『病気がみえるvol.11 運動器・整形外科』メディックメディア
- Abrams R, Akbarnia H. Shoulder Dislocations Overview. [Updated 2023 Aug 8].
記事監修・整形外科医
- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター
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※サポーターの使用によりこれらの症状に効果があるわけではありません。