世界最高峰米バスケットボールリーグで活躍したパフォーマンスコーチが語る、“ケガを最小限にする”という考え方。最高の選手たちが「自分ごと」として向き合う理由
華やかなプレーが繰り広げられる世界最高峰のバスケットボールの舞台。鋭いクロスオーバー、急激な方向転換、空中でバランスを保ちながら放たれるシュート。その一瞬一瞬の裏側には、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮し続けるための、地道で継続的なコンディショニングの積み重ねがあります。
今回お話を伺ったのは、元NBAパフォーマンスディレクターのチェルシー・レーン氏。 オーストラリアでスポーツ理学療法を学び、ゴールデンステート・ウォリアーズ、アトランタ・ホークスでパフォーマンスディレクターとして活躍してきました。
本記事では、トップレベルの現場で考える「ケガを最小限にする」という視点、82試合を戦い抜くために必要な身体づくり、そして一流選手たちに共通する“身体との向き合い方”について伺いました。
「パフォーマンスディレクター」という仕事とは
まず、「Director of Performance(パフォーマンスディレクター)」とは、どのような役割なのでしょうか。
「簡単に言うと、とても忙しい仕事です(笑)。
パフォーマンス分野の専門家や医療スタッフなど、さまざまなスペシャリストたちをまとめながら、それぞれの選手に合わせたプログラムを構築していきます。
選手は一人ひとり身体も違えば、プレースタイルも違います。だからこそ、その選手が最高のパフォーマンスを発揮できる状態をつくるために、各分野の知見をつなぎ合わせていくことが私の役割でした」
トップ選手たちが“ケガ予防”を最優先にする理由
世界最高峰で戦う選手たちは、ケガ予防についてどのような意識を持っているのでしょうか。
「スポーツというものは、本質的にケガのリスクがある世界です。だからこそ大切なのは、“ケガをゼロにする”ことではなく、“できる限り少なくする”こと。そして、もし起きてしまった場合には、適切に対処して競技復帰につなげることだと思っています。
ケガ予防への向き合い方は選手によって異なります。早い段階から高い意識を持つ選手もいれば、大きなケガを経験して初めて重要性に気づく選手もいます。
ただ、トップレベルの選手たちに共通しているのは、ケガ予防やコンディショニングを“最優先事項”として捉えていることです。そして、ただ優先するだけではありません。“自分自身の責任として向き合っている”のです」
足元の安定性がパフォーマンスを左右する
バスケットボールでは足首のネンザが多く見られます。足首の安定性はどれほど重要なのでしょうか。
「足部や足首は、身体が地面と接する最初の場所です。そこに少しでも問題があると、身体全体に影響が及び、将来的なケガのリスクにもつながります。
そして、足首のケガで最も大きなリスク要因になるのが、“過去にネンザをしたことがある”ということです。一度繰り返すようになると、慢性的な問題へ発展してしまうケースもあります。
また、足首や足部がしっかり機能していないと、パフォーマンスにも大きく影響します。シュートの感覚、加速、相手をかわす動きなど、細かなプレーの質にも関わってくるのです」
トレイ・ヤング選手と取り組んだ足首のコンディショニング
チェルシー氏は、アトランタ・ホークス時代にトレイ・ヤング選手のコンディショニングも担当していました。
トレイ選手の足首の問題に対して、どのようなことを重視していたのでしょうか。
「まず最優先だったのは“痛み”への対応です。足首のケガは本当に痛みを伴いますから。
その上で、次に考えるのは『どうすれば安全にコートへ戻せるか』ということでした。そして、競技ができない期間も、身体の状態を維持しながら、メンタル面でも競技とのつながりを失わないことが大切でした」
当初はテーピングも使用していたそうですが、その後サポーターへ切り替えた理由を教えてください。
「私はテーピングをよく活用するタイプでした。ただ、快適性や着脱のしやすさ、動きやすさなど、すべての面を満たすことが難しかったのです。
必要だったのは、“動きを妨げずに保護できること”。そこで足首サポーターへ移行しました」
なぜ「A2-DX」を選んだのでしょうか。
「トレイは非常にダイナミックな選手です。素早く、予測不能な動きをします。
だからこそ、彼の“武器”を奪いたくありませんでした。サポーターには、軽さや快適性が必要でしたし、プレー中に存在を気にしなくていいことも重要でした。その上で、しっかり保護されている感覚も必要だったのです。
以前からNBAのポイントガードがA2-DXを使用しているのを見ていて、必要な条件を満たしていると感じていました。
軽量性、通気性、サポート力、着脱のしやすさ。プレーを妨げるのではなく、むしろパフォーマンスを引き出してくれる存在でした」
若い選手たちへ─トップレベルを目指す上で大切なこと
最後に、トップレベルを目指す若い選手たちへメッセージをお願いします。
「近道をしようとしないことです。まずは基礎をしっかり積み上げること。土台ができていない状態で、派手なものだけを追いかけても意味がありません。
そして、信頼できる専門家やチームを持ち、そのアドバイスに耳を傾けること。
あとは、努力し続けることですね。転んでも、また立ち上がる。その繰り返しです。でも、立ち上がり続けることが大切なのだと思います」
まとめ
トップレベルのスポーツ現場では、「ケガをしないこと」ではなく、「ケガを最小限に抑えながら、最高のパフォーマンスを維持すること」が求められています。
そのために必要なのは、日々の身体づくりやコンディショニングを“誰か任せ”にするのではなく、自分自身の課題として向き合うこと。
チェルシー氏が語っていた「トップ選手は“own it(自分ごととして向き合う)”」という言葉には、競技レベルを問わず、多くのアスリートに共通する本質があるように感じられます。
派手なプレーの裏側には、地道な積み重ねがあります。足元の安定性、身体のケア、日々の選択。その一つひとつが、長く競技を続けるための土台になっているのかもしれません。
プロフィール

- チェルシー・レーン氏
- スポーツ理学療法士/ハイパフォーマンススペシャリスト
オーストラリアでスポーツ理学療法を学び、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズおよびアトランタ・ホークスにてパフォーマンス部門・スポーツ医科学部門を歴任。NBAにおいて女性として初期のパフォーマンス/メディカル部門責任者の一人として複数回の優勝にも携わる。
現在は、アスリートファーストの視点を軸に、ハイパフォーマンス領域のコンサルティングやプログラム開発を行い、ケガの最小化や競技復帰、競技力向上に関する知見を発信している。