2026.10.06
オーバートレーニング症候群とは|疲労・オーバーリーチングとの違い、症状、回復までの考え方
練習を続けているのに、記録が伸びない。休みを取っても疲れが抜けない。気持ちが上がらず、以前のようなパフォーマンスが発揮できない。そのどれかに心当たりがある場合、単なる疲労ではなく「オーバートレーニング症候群」の可能性が考えられます。
オーバートレーニング症候群は、運動後の一時的な疲労やオーバーリーチングと似た症状がみられますが、回復までにかかる時間が異なります。また、症状だけで判断することはできず、ほかの病気などの可能性を除いたうえで診断されます。ここでは、一時的な疲労やオーバーリーチングとの違い、症状や原因、自分で気づくための手がかり、医療機関での診断と回復までの考え方を順に整理します。
オーバートレーニング症候群とは
オーバートレーニング症候群は、練習の負荷に対して回復が間に合わない状態が続いた結果、競技のパフォーマンスが長い期間にわたって落ちてしまうものです。気分の落ち込みをともなうことがあります。
ここで知っておきたいのは、オーバートレーニング症候群は、症状だけで判断できるものではないということです。医療機関では、ほかに考えられる病気や要因がないことを確認したうえで、この診断にたどりつきます。また、原因が一つに定まっているわけではなく、詳しい仕組みも十分には解明されていません。そのため、オーバートレーニング症候群は「はっきりした説明がつかないのに、パフォーマンスが落ちたままになっている」という競技現場の状況に向き合うために、スポーツ医学のなかで組み立てられてきた考え方です。
オーバートレーニング症候群という言葉も、はじめから呼ばれていたわけではありません。練習を積んでも競技力が戻らなくなる状態は以前から知られており、過去にスタルネス、回復不足、慢性疲労など、さまざまな言葉で説明されてきました。日本では、1990年代にスポーツ医学の文献で「オーバートレーニング症候群」という名称が使われています。
こうした状態については、かつて研究者によって呼び方や線引きが異なっていました。しかし、研究が進むにつれて次第に整理されていきます。2000年代には、ヨーロッパのスポーツ科学の学会が見解をまとめ、2013年にはアメリカのスポーツ医学の学会と合同で声明を出しました。特定の一人が提唱したものではなく、複数の研究者や専門機関が時間をかけて整理してきたものです。その過程で、疲労から回復するまでの時間に応じて「オーバーリーチング」と「オーバートレーニング症候群」を分けて考えるようになりました。
一時的な疲労・オーバーリーチングとの違い
運動のあとの疲れから、オーバートレーニング症候群までには段階があります。段階を分ける目安になるのは、症状の重さではなく、回復にどれくらいかかるかです。
| 状態 | 回復に要する期間の目安 | パフォーマンスの変化 |
|---|---|---|
| 急性の一過性の疲労 | 数日 | 休むと回復し、そのあとに上がる |
| 機能的オーバーリーチング | 数日〜数週 | 一時的に落ちるが、休養後に上がる |
| 非機能的オーバーリーチング | 数週〜数カ月 | パフォーマンスが停滞または低下する |
| オーバートレーニング症候群 | 数カ月以上 | パフォーマンスが落ちた状態が続く |
この表で着目すべき点は、非機能的オーバーリーチングとオーバートレーニング症候群を分けるのが「回復にかかる時間」で、症状の程度や種類ではないということです。現れる症状は似ていることがあるため、休養後の経過を振り返って、はじめてどちらだったのかが分かります。
また、ここに挙げた期間はあくまで目安です。日数だけで判断できるものではなく、実際には個人差があります。
オーバートレーニング症候群の症状
オーバートレーニング症候群の症状は、身体の一か所にとどまりません。次のように、身体や精神面などいくつかの系統にまたがって続きます。
- 競技パフォーマンスの低下
- 疲労症状(疲れやすさ、身体のだるさ、筋力の低下、息切れしやすい、筋肉や腱・関節の痛み、食欲の低下、体重の減少など)
- 精神・心理面の症状(気分の落ち込み、注意力の低下、意欲の減退、興味や喜びを感じにくくなること、不安、気持ちの不安定さなど)
- 自律神経の乱れによる症状(めまい、動悸、吐き気、便通の変化、頭痛、不眠、過度な眠気、起床時の心拍数の変化など)
- 免疫機能の低下による症状(風邪をひきやすくなること、口内炎、口唇ヘルペスなど)
これらの症状は、オーバートレーニング症候群以外の原因でも起こることがあります。そのため、症状だけでオーバートレーニング症候群と判断することはできません。
なぜ起こるのか|練習量だけの問題ではない
オーバートレーニング症候群は、練習の負荷と回復のバランスが崩れることで起こると考えられています。ただし、それだけが原因ではなく、練習以外のさまざまな負担が引き金として関わります。ヨーロッパとアメリカの学会の合同声明では、練習内容が単調であることや、人間関係の悩み、仕事の精神的な負担、睡眠の乱れ、暑い環境での運動、住まいの変化などが挙げられています。
同じ練習量でも、どこで影響を受けるかは人によって違います。ストレスへの耐性は人それぞれ異なるため、「これ以上の練習量は危ない」という共通の線引きはできません。
オーバートレーニング症候群が起こる仕組みについては、いくつもの説明が提唱されてきました。しかし、症状のすべてを説明できたものはなく、詳しい仕組みはまだ十分に解明されていません。また、実際どれくらいの人に起こるのかについても、正確な数字は分かっていません。
自分で気づくための手がかりと、練習日誌の記録
最も重要なサイン
オーバートレーニング症候群に気づくうえで、特に意識したいサインがあります。それは、パフォーマンスが落ちているのに、練習量や努力を増やしても以前の水準に戻らないことです。このとき、練習を増やす方向に進まないよう注意が必要だとされています。
ほかにも、次のような変化も警告のサインとして挙げられています。
- 意欲が落ちること。疲労感そのものは練習にともなって発生する一方、意欲の低下は別の意味を持つサインとして重く見られています。
- 練習を始められるが、最後まで集中力やパフォーマンスが持たないこと。ラストスパートが出なくなること。
- 同じ練習量なのに、以前よりも強いきつさを感じること。
練習日誌に記録すること
自分の状態を振り返る方法として、練習日誌に書きとめておく方法があります。練習内容だけでなく、次のような項目を記録しておくと、自分のコンディションを振り返りやすくなります。
- 練習前の疲労感
- 意欲の状態
- 睡眠の状況
- 食欲
- 排便の状況
- 体重
- 起床時の心拍数
- 女性の場合は月経の状況
なかでも、起床時(または安静時)の心拍数は、疲労にともなう自律神経のはたらきの乱れを映す、手軽な指標になります。
練習の負荷もあわせて記録できます。例えば、その日の練習のきつさを主観で数値にして、練習時間(分)をかけた値を、その日の負荷として記録する方法があります。
ここに挙げたものは、自分で診断するための基準ではありません。あくまで自身の変化に気づくためのきっかけです。当てはまる状態が続く場合は、自己判断せず、医療機関への相談を検討してください。
オーバートレーニング症候群の診断と、回復までの進め方
診断はほかの病気を除いて進められる
オーバートレーニング症候群の診断の中心になるのは、問診とこれまでの経過の確認です。血液検査も行われることがありますが、ほかに症状の原因となる病気がないかを確認するために行います。
確認対象として挙げられているものには、甲状腺や副腎の病気、糖尿病、鉄不足による貧血、感染症、気分の不調、喘息や気道の過敏な状態などがあります。あわせて、食事のとり方やエネルギー摂取量の不足、糖質やたんぱく質の不足、マグネシウム不足、アレルギーの有無なども確認されます。
現在のところ、オーバートレーニング症候群だけを特定できる検査はありません。ホルモンや運動負荷への反応など、さまざまな指標が調べられてきましたが、単独で判定できる検査は確立されていません。そのため、複数の情報を総合的に評価しながら判断が行われます。また、女性を対象とした研究はまだ十分でなく、月経周期やピルの使用がホルモンの検査結果に影響する可能性なども課題として残っています。
回復の中心は休養
まず、通常の医療の範囲で対応できる部分がないかを確かめます。そのうえで、一定の期間、競技活動から離れて休養を確保することが中心になります。国内の報告では、休養期間は多くの場合数カ月単位とされており、休養だけで回復が得られることも少なくありません。また、ヨーロッパとアメリカの学会の合同声明では、回復をもたらす手段として、休養とごく軽い運動が挙げられています。
一方で、完全に休むのがよいのか、軽い運動を続けた方がよいのかについては、現時点ではまだ定まっていません。
背景に心理的な要因や、環境に合わせることの難しさがある場合、休養だけでは回復に至りにくいとされています。その場合は、競技に通じた精神科医や心理の専門職の支えを得ながら、問題を整理していくことになります。
日頃のコンディション管理
日頃のコンディション管理では、食事と睡眠を疎かにしないことが重要です。忙しい時期や、生活のリズムが崩れているときほど抜けやすくなります。心と身体の両面で回復を意識して、次の練習に疲れを持ち越さないようにしましょう。
練習計画は柔軟に見直すことも重要です。予定どおりの内容をこなすことにこだわらず、その日の体調やコンディションに応じて練習の量や強度を調整します。練習をこなすこと自体が目的にならないよう気をつけながら、仕事や家庭の負担が大きい時期と、練習の負荷が高い時期を重ねないようにすることも挙げられています。
また、感染症にかかったあとや暑熱による体調不良のあとなど、強い負担がかかっている時期は、練習を控えます。加えて、競技者本人と指導者、医療者のあいだで、体調やパフォーマンスの変化や生活上の悩みについて率直に話せる環境があることが重要とされています。
練習後の疲れが残るときのストレッチ
数日休めば戻る程度の疲れなら、練習後に体をほぐしておくのも一つの方法です。部位別のやり方を次の記事でご紹介しています。
【トレーナー監修】ランニング後の疲労回復ストレッチ6選!太もも・ふくらはぎなど部位別に徹底解説
https://www.zamst-online.jp/brand/supporter/51405/
ゴルフの疲れを翌日に残さない疲労回復系ストレッチ
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まとめ|休んでも調子が戻らないときは早めの相談を
オーバートレーニング症候群は、単なる疲労とは異なり、十分な休養をとってもパフォーマンスの低下や不調が長く続く状態です。一時的な疲労やオーバーリーチングと区別するポイントは、症状の種類や重さではなく、回復までにどれくらいかかるかです。その判断は、休養の期間を置いたあとに振り返ってはじめてできるため、現時点で調子が落ちていること自体を、あわてて名前のついたものに当てはめる必要はありません。
そのうえで、練習量だけでなく、競技以外の負担や、食事・睡眠を含めた回復にも目を向ける必要があります。「これ以上は危ない」という共通の線引きはなく、同じ練習量でも、どこで影響を受けるかは人によって異なるため、日々の状態を書きとめておくことが自身で気づく手がかりになります。
特に気をつけたいのは、パフォーマンスが落ちているのに、練習量や努力を増やして取り戻そうとすることです。調子が戻らない状態が続いているなら、ほかの病気が隠れている可能性もあります。我慢して練習を重ねる前に、一度、医療機関で相談してください。
本記事の情報の取り扱いについて
本記事は、医学文献に基づいて一般的な情報をまとめたものであり、個々の症状に対する診断や治療を示すものではありません。記載した研究の結果は、それぞれの研究が対象とした人たちについてのものであり、すべての人に当てはまるものではありません。練習を休んでも調子が戻らない状態が続く場合、また気分の落ち込みや睡眠の問題が続く場合は、自己判断をせず、医療機関にご相談ください。診断と治療の方針は、医師の診察と検査に基づいて決められます。
参考文献
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- 山本宏明. オーバートレーニング症候群:理解と対応. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2023;31(3):376-378.
- 白山正人. オーバートレーニング症候群. 体力科学. 1996;45(3):395-398.
記事監修・整形外科医

- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター