女性に多いスポーツ傷害とは?その理由と対策

スポーツを楽しむ人にとって、ケガや障害は避けて通れない問題です。特に女性アスリートには、女性特有の身体的特徴や生理的要素によって特定のスポーツ傷害が多く見られる傾向があります。この記事では、女性に多く見られるスポーツ傷害を詳しく取り上げ、その背景にある理由や効果的な予防策について詳しく解説します。
スポーツ傷害における男女差
スポーツ傷害の発生には、一定の男女差が存在します。その主な理由は以下のように整理できます。
解剖学的要因:女性は男性に比べて骨盤が広く、腿骨と膝関節をつなぐ角度が大きいため、膝や足首など下半身の関節への負担が増加するという見解があります。
ホルモンの影響:月経周期とホルモンの影響はスポーツ傷害に関与するとされている研究があります。これについては明確なメカニズムや影響度合いは研究によって異なり一定していません。
特定の動作における傾向:女性は特定の動作(ジャンプや着地)において膝が内側に入りやすく、これが前十字靭帯(ACL)損傷などのリスクを増加させる要因の一つとも言われています。
栄養とエネルギーの問題:栄養不足(特にカルシウムとビタミンDなど)やエネルギー不足により、骨密度や筋肉量が低下し、疲労骨折などのリスクが増加する可能性について議論されています。
女性に多いと考えられているスポーツ傷害
前十字靭帯(ACL)損傷
前十字靱帯(ACL)損傷は、バスケットボールやサッカーなどで特に多く見られます。女性アスリートは前十字靭帯(ACL)損傷のリスクが高いと考えられています。
前十字靭帯(ACL)損傷とは
これは前述のように膝関節の不安定性や動作の特性に関連すると考えられます。例えば着地動作に注目してみましょう。
着地動作の際、女性は男性に比べて着地の瞬間に膝や股関節をあまり曲げず、脚が伸びたまま着地する傾向があると考えられています。その際、衝撃を和らげるため、足首の筋肉を多く使ったり、身体全体を大きく動かして衝撃を逃がそうとしたりしますが、競技中に疲れがたまると、その動きを支える筋肉の働きが弱まります。その結果、膝に直接大きな負担がかかりやすくなります。
ハーフタイムにしっかり休息を取ることや、疲労時の膝への負担を和らげるためにサポーターなどを活用するのも予防の一つでしょう。
※なお、前十字靭帯(ACL)損傷は、ジャンプの着地動作だけでなく、急な方向転換や身体のバランスを調整する神経や筋肉の働きなど、さまざまな要因が関係して起こり、その理由はまだ完全には解明されていません。
疲労骨折
疲労骨折は繰り返しの負荷による骨の損傷であり、これも女性アスリートに多いと考えられています。
原因として、栄養不足やエネルギー不足による骨密度の低下が挙げられています。
脳震盪
女性は男性に比べて首回りが短く、頭の大きさに比べて首の筋力が弱いことから脳震盪のリスクが高いと言われています。
肩の障害(腱板炎・肩関節不安定性)
女性アスリートにおいて肩の障害(腱板炎・肩関節不安定性)が頻繁に報告されています。女性アスリートは男性に比べて肩の筋力が弱く、可動域が広い傾向があるなど、筋力の差異、関節の柔軟性、骨格構造の違いが関与している可能性があります。
ランナー膝(腸脛靭帯症候群)
ランナー膝(腸脛靭帯症候群)はヒザの屈伸運動を繰り返すことで腸脛靱帯が大腿骨の外側にある骨とこすれ、炎症を起こしてしまい痛みが発生するスポーツ傷害です。これも疾患を起こす割合は女性が高いと言われています。
ランナー膝(腸脛靱帯炎)とは
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が膝蓋大腿関節から逸脱(脱臼)するスポーツ外傷で、思春期の女子に多く発生します。男性と比較すると女性は骨盤が広いため、膝が内側に入りやすく、また関節や靭帯も柔軟でゆるみやすい傾向にあります。そのため、膝のお皿(膝蓋骨)が外側に引っ張られやすく、膝蓋骨脱臼が起こりやすくなると考えられます。
膝蓋骨脱臼とは
足関節捻挫(⾜関節靱帯損傷)
スポーツ中に起きやすい怪我の代表格である足関節捻挫(⾜関節靱帯損傷)も女性のリスクが高いと言われています。女性の関節は柔軟性が高く靭帯がゆるみやすいこと、筋力不足が影響している可能性があります。
⾜⾸捻挫(⾜関節捻挫)とは
足底腱膜炎(足底筋膜炎)
足底腱膜炎(足底筋膜炎)は、繰り返しの運動負荷により足の裏の腱膜が炎症を起こすもので、女性アスリートにおいても頻繁に報告されています。
足底腱膜炎(足底筋膜炎)とは

ランナー膝や足底腱膜炎はランニング動作の繰り返しで多発します。女性はランニング時に股関節が内側にねじれ、足首が内側に倒れやすい傾向があると考えられるため、足首が内側に倒れ込む動きを抑える靴やインソールの活用を検討するのもよいでしょう。
女性のスポーツ傷害の予防策
女性アスリートがスポーツ傷害を予防するには、女性に多いスポーツ傷害にも配慮しながら、適切なトレーニングや栄養管理、運動前後の入念なストレッチ、十分な休息を取ることが重要です。
同じ動作を繰り返し行うと、筋肉や関節に負担がかかります。特に成長期の子どもは、身体がまだ発達途中にあるため、睡眠や身体を休める時間をしっかり確保することが大切です。
また、ランや切り返し動作の際に膝が内側に入りやすい人が多いため、膝と足先の位置関係に注意し、フォームを見直しましょう。なお、疲労時の負担を補うために、シューズの工夫や、サポーター、インソールなども試してみるのもよいでしょう。

参考文献
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY』ZAMST
- Lin CY, Casey E, Herman DC, Katz N, Tenforde AS. Sex Differences in Common Sports Injuries. PM R. 2018 Oct; 10(10): 1073-1082. doi: 10.1016/j.pmrj.2018.03.008. Epub 2018 Mar 14. PMID: 29550413; PMCID: PMC6138566.
- Ivković A, Franić M, Bojanić I, Pećina M. Overuse injuries in female athletes. Croat Med J. 2007 Dec; 48(6): 767-78. doi: 10.3325/cmj.2007.6.767. PMID: 18074410; PMCID: PMC2213798.
記事監修・整形外科医

- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員
日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター