ゴルフ肘(内側上顆炎)とは?|腕の内側の痛みをやわらげる原因・治療・リハビリ法

肘の内側がズキズキと痛む、物をつかむと力が入らない—そんな違和感を覚えたことはありませんか?ゴルフをはじめ、野球やテニス、日常的な作業でも起こる「ゴルフ肘(内側上顆炎)」は、意外と多くの人が悩まされる障害のひとつです。この記事では、ゴルフ肘の原因や症状、セルフケアの方法、そして回復をサポートするストレッチまで解説します。
ゴルフ肘(内側上顆炎)とは?
ゴルフ肘(医学名:内側上顆炎)とは、肘の内側にある「上腕骨内側上顆(じょうわんこつないそくじょうか)」に炎症が起こり、痛みやだるさを引き起こす障害です。
名前のとおり、ゴルフをする方に多く見られますが、実際にはゴルフ以外のスポーツや、日常的な作業・反復動作によっても発症します。むしろ、スポーツ以外で発症するケースの方が多いとも言われています。

ゴルフ肘(内側上顆炎)の症状とは?
- 肘の内側にズキズキとした痛みや圧痛が生じる(前腕全体に痛みが広がることもあります)
- 握力が低下し、手や手首に力が入りにくくなる(例:ペットボトルのふたが開けづらい)
- 手首を曲げる、握りこぶしをつくるなどの動作で痛みが強くなる
- 前腕(ひじ〜手首)のだるさや重さを感じる
- 指(特に薬指や小指)にしびれやチクチクとした感覚が出ることがある
※これは、近くを通る「尺骨神経」が影響を受けている可能性があります
これらの症状は、利き腕に出ることが多く、繰り返し動作によって悪化する傾向があります。
急に痛みが現れることもありますが、徐々に現れて慢性化するケースも少なくありません。
ゴルフ肘(内側上顆炎)の原因とは?
指や手首を曲げる筋肉である「前腕屈筋群(ぜんわんくっきんぐん)」の多くは、筋肉の腱が内側上顆に付着しています。この部位に繰り返し負荷がかかることで、小さな損傷や炎症が起き、ゴルフ肘が発症します。
また以下のような活動はゴルフ肘の原因になり得ます。
- ゴルフのスイング動作(特にダウンスイング〜インパクト)
- 野球の投球フォーム
- テニスのフォアハンド
- スーツケースや工具などの持ち運び
- 調理・タイピング・DIYなどの繰り返し作業
さらにリスク要因として以下が挙げられます。
- スポーツや仕事に関わらず反復的な動作(2時間以上)
- 肥満
- 喫煙
- 加齢(40歳以上)
ゴルフ肘の治療方法|保存療法が基本
ゴルフ肘の治療は、テニス肘(外側上顆炎)と同様、多くの場合は保存療法(手術を行わない治療)が中心です。痛みのある動作を控えつつ、以下のような治療法を段階的に進めます。再開の目安はおよそ4~6週間の安静が推奨されます。改善が見られない場合は、必ず医師の診察を受けましょう。
主な治療内容
- 安静・アイシング:使いすぎを防ぎ、炎症を抑える
- 鎮痛薬(NSAIDs):痛みが強い場合は、市販のイブプロフェンなどが使用可能
※長引く症状や持病がある場合は、医師の指示を受け処方薬を使用しましょう - 物理療法:超音波・ハイボルテージなどの高電圧パルス電流療法などによる補助治療
- ストレッチ・リハビリ:肘周囲の筋肉と腱の柔軟性・機能回復を促進
- サポーターやテーピングの使用:動作時の負担を軽減し、再発防止に有効
- 温熱療法:慢性期の症状緩和に用いられることがあり、痛みの軽減に寄与する場合があります
- 理学療法(PT):必要に応じて、専門家の指導下でリハビリテーションを実施
ゴルフ肘の診断・検査
医療機関では、以下の流れで診断が行われます。安静にしていても肘の痛みや圧痛が和らがない場合には医師に相談しましょう。
- 問診と触診:痛みの出る部位や動作を確認
- X線検査:骨の異常や変形を除外
- 超音波・MRI検査:腱の炎症や損傷の程度を詳細に確認
早期発見・早期対処が、治癒までの時間を短縮するポイントです。
ゴルフ肘|基本のストレッチ&リハビリ
痛みが軽減してきたら、再発予防のためにストレッチと軽いトレーニングを始めましょう。
手のひらの背屈ストレッチ
- 腕を前に出して手のひらを上に向ける
- 指先を自分の方向へ曲げて、反対の手で手のひらを軽く押さえる
- 15〜30秒キープ × 3回
肘の内側に、心地よい伸びを感じる程度で止めましょう
※テニス肘の場合、手のひらを下に向けての手首屈曲方向のストレッチを用います。一般的なケアとして両方行うことも問題はないでしょう。

肘・前腕まわりの柔軟性を高める目的で、以下のストレッチも補助的に取り入れるとよいでしょう。
手のひらを回すストレッチ
- 右腕を前に伸ばし、手のひらを上に向けた状態で、左手で軽く力を加えながら手のひらを反時計回りに回します。
- 手~肘~肩まで腕全体が伸びているのを感じながらそのまま10~20秒キープ
- 同様に手のひらを時計回りに回します。これらの動きを2~3セット行います。

手を組んで手首を回すストレッチ
- 手を組み、手首を大きく円を描くようにゆっくり回す(左右20回ずつ)

これらのストレッチは、痛みが引いてきた段階から始めるのが基本です。急性期には安静を優先し、慢性化を防ぐために無理のない範囲で取り入れていきましょう。
手首の遠心性屈曲
ストレッチに加え、回復期には遠心性収縮を活用した筋力トレーニングも有効です。
- 軽いダンベルやペットボトルなどを持ち、手のひらを上に向けた状態で前腕を固定
- 手首を曲げた状態から、ゆっくりと重力に逆らわずに下ろす(伸ばす)動作を行う
- 無理のない範囲で、10回を目安に1〜2セットから開始
この動作では、手首を支える筋肉が引き伸ばされながら力を出す(遠心性収縮)ことで、腱の機能回復が促されます。使用するウェイトは、最大挙上重量の25~30%程度を目安にし、過度な負担がかからないよう注意しましょう。

まとめ|ゴルフ肘は早期対策と日々のケアがカギ
ゴルフ肘(内側上顆炎)は、「使いすぎ」によって起こる障害ですが、初期のうちに適切な対策を取ることで十分に改善が期待できます。
- 痛みが出たらまずは休養とアイシング
- ストレッチとサポーターを組み合わせてセルフケア
- 症状が続く場合は整形外科を受診して正しい診断を
早めの行動が、競技や仕事への早期復帰につながります。
「いつもの痛み」と軽視せず、大切な肘を守っていきましょう。
参考文献
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY 対策HANDBOOK 肩・ヒジ・手首 指の痛み』 ZAMST
- 医療情報科学研究所 『病気がみえるvol.11 運動器・整形外科』 メディックメディア
- Kiel J, Kaiser K. Golfers Elbow. [Updated 2023 Jun 26]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-.
記事監修・整形外科医

- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員
日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター