スポーツに打ち込むジュニア・アスリートにおすすめのストレッチ

スポーツや部活動に打ち込む小学生高学年のジュニア・アスリートにとって、ケガをせずに力を発揮するためには「柔軟性」が欠かせません。体をしっかり動かす前にストレッチを行うことは、ケガの予防だけでなく、走る・跳ぶ・投げるといった動作の質を高め、運動能力の向上にもつながります。
成長期の体は、大人とは異なる特徴を持っています。骨や筋肉がまだ発達の途中にあるため、少しの負担でも大きなストレスとなり、障害の原因になることがあります。だからこそ、日ごろから柔軟性を高める習慣をつけておくことが、スポーツを長く続けるための土台になります。
成長期特有のリスク
小学生高学年の時期は、骨格や筋肉が急速に成長する時期です。そのため、大人とは異なるリスクが存在します。代表的なものを4つに整理すると次の通りです。
成長スピードの個人差
発育の速さには大きな個人差があり、一人ひとりで体の変化のタイミングが異なります。そのため、大人のようにケガの発生や再発を予測することが難しいのが特徴です。
(例:成長が早いジュニアでは関節や筋肉に負担が集中しやすく、疲労骨折が起こるケースもあります)
骨・軟骨・筋力の未発達
骨や軟骨、筋力が十分に育っていないため、フォームが安定せず、動作そのものが体に大きなストレスとなることがあります。その結果、特定の部位に過度な負担が集中し、障害を引き起こす場合があります。
(例:野球肘やリトルリーグ肩など、投げ動作で繰り返し負荷がかかる障害)
急激な身長の伸び
成長期には、1年間で身長が10センチ以上伸びることも珍しくありません。骨の成長に筋肉の発達が追いつかず、バランスが崩れることでケガの原因になることがあります。
(例:ヒザに痛みが出るオスグッド病、かかとに痛みが出るシーバー病)
ケガを放置した場合のリスク
成長期のケガは軽く考えられがちですが、放置すると後遺症が残る場合もあります。早期に対応し、予防のための取り組みを続けることが何より大切です。
(例:シンスプリントや腰椎分離症は、適切な処置を怠ると長引き、成長後まで影響を残すことがあります)

ストレッチでは柔軟性を支える4つの関節に注目
ストレッチで特に意識したいのが「肩・胸椎(背骨の胸の部分)・股関節・足首」です。これらは大きな動作の要となる関節であり、どれかが硬くなると全身の動きに影響します。
- 肩:投げる・打つ・泳ぐなど上半身の動きに直結する
- 胸椎:体幹をひねる、反る、伸ばすといった動作を支える
- 股関節:走る、跳ぶ、方向を変える動作の中心になる
- 足首:地面を蹴る力や着地の安定性に関わる
これら4つの関節の可動域を確保することが、スムーズな動作とケガの予防につながります。
柔軟性と運動能力の関係
柔軟性が運動にどのようにつながるのかを理解するうえで参考になるのが、理学療法士 Gray Cook 氏が提唱した Optimum Performance Pyramid(パフォーマンス向上のピラミッド)です。

最下層:基礎的な動作(ファンダメンタル・ムーブメント)
柔軟性、バランス、体幹の安定性など。身体を正しく、滑らかに動かすための基盤。
中層:身体能力(パフォーマンス)
筋力、パワー、スピード、持久力など。基礎動作の上に積み上がる体の「出力の大きさ」。
最上層:競技スキル(スキル)
スポーツ特有の技術や戦術。土台がしっかりしていれば、技術が安定しやすく、成果につながりやすい。
この枠組みでは、柔軟性は基礎的な動作の一部として位置づけられます。土台となる柔軟性やバランス、体幹の安定が備わっていれば、その上に積み重なる筋力や技術が安定して発揮されます。反対に基盤が弱ければ、せっかくの練習成果も十分に活かされにくくなります。
これから紹介するストレッチ
次に紹介するのは、肩・胸椎・股関節・足首をバランスよく動かすためのストレッチです。成長期でも安心して続けられる内容で、運動前の準備などに取り入れてみましょう。
腹筋のストレッチ
柔軟な腹直筋にすることで、背中側の脊柱起立筋とのバランスを取ります。
1. うつぶせの状態から、両手で床を押して上体を起こす
2. 背中を反らせ、お腹が伸びているのを感じたところで止める天井を見るような姿勢。
※腰に痛みを感じたら無理せず中止しましょう。

体幹部(裏側)と腰のストレッチ
1. 両ヒザを曲げて仰向けに寝る
2. 両ヒザを抱え、背中を丸める
3. 腰を軸に前後にコロコロと転がる。腰の上下10cmほどを床につけるイメージ
※10回前後、リズミカルにゆっくり転がりましょう。

ももや股関節、胸椎のストレッチ
1. 足を前後に開き、ランジの姿勢をとる。後ろ足はまっすぐに伸ばし、臀部を締めて股関節の伸びを感じる
2. 前足のヒザを外側に押し出し、股関節をさらに広げる
3. 曲げたヒザ側の腕を身体の内側に差し込み、上半身を大きく回旋させる。硬直しがちな胸椎の可動性を高める
※この一連の繰り返しを片側10回ずつ程度行います。

ショルダープレス&スクワット
軽めのダンベルや水を入れたペットボトルを使用します。
1. 足を肩幅に開き、重りを肩の高さで構える。つま先とヒザはやや外側を向ける
2. そのままスクワット。ヒザが内側に入らないよう注意
3. 立ち上がりながら重りを頭上に押し上げる(プレスアップ)
※上半身と下半身の連動を意識し、滑らかに行いましょう

片足ホップ(足首まわりの柔軟性)
1. 両手を腰に当て、片足で左右にリズミカルにホップ。10秒程度。視線は正面を見る
2. 同様に片足で前後にホップ

※足に痛みや違和感がある場合は中止しましょう。
※縄跳びにも動的ストレッチ(足首、肩関節)の動きが含まれています。また、血流もまわるので、運動前に最適です。
参考文献
- ザムスト『対策HANDBOOK スポーツをするジュニアへのアドバイス集』
- Cook, G. (2010). Movement: Functional movement systems. On Target Publications.
記事監修・トレーナー

- 遠山 健太さん
- ワシントン州立大学教育学部小等学科卒業。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科修了。株式会社ウィンゲート代表取締役。全日本モーグルチームのトレーナーとして、トップアスリートのトレーニング指導に携わってきた一方で、子どもの運動教室「ウィンゲートキッズ」のプログラムを開発するなど、子どもの体力向上についての研究も行っている。家族体力測定イベント「マイスポ」で第11回健康寿命をのばそう!アワード(生活習慣病予防分野)の企業部門において、スポーツ庁長官優秀賞を受賞。著書に、『るるぶKids こどもの運動能力がぐんぐん伸びる公園 東京版』(JTBパブリッシング)、『コツがつかめる! 体育ずかん』(ほるぷ出版)などがある。