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ZAMST Online

2024.05.01

スポーツと熱中症|スポーツドクターからのアドバイス① リスクの理解編

スポーツ障害の中でも重症度が高いとされる熱中症については、多くの情報がネットでも公開されています。今回の記事では、スポーツの現場ではどのように熱中症のリスクと向き合っているのかを中心に、サッカー日本代表チームのドクター経験を持つ加藤 晴康先生に話を伺いました。

 

※熱中症の詳しい説明についてはこちらの記事(熱中症とは|致死率の高いスポーツ障害)をご覧ください
※後編(スポーツと熱中症|スポーツドクターからのアドバイス② 予防編)はこちら

スポーツの現場と熱中症

熱中症とパフォーマンス

チームドクターという目線で、競技における暑さ対策の重要性についてお聞かせください

熱中症は最終的には命の危険を伴う怖い病態の総称ですが、スポーツに取り組んでいる人にまず認識してほしいのは、「熱中症に近づけば近づくほどパフォーマンスが落ちる」ということです。

 

例えばサッカーですが、上達するにはできるだけいいコンディションで、いい環境でトレーニングするというのが秘訣だと思います。ゴールデンエイジと呼ばれる時期の子どもたちにとっても、暑さでフラフラになりながら練習してもサッカーの上達にはあまり効果は期待できません。

スポーツの現場での対策としてはまず何が重要でしょうか

 

個別の対策を知ることも重要ですが、まずは熱中症になる仕組みをある程度でいいので、指導者も選手自身も理解することが大事ですね。特にスポーツの現場では、深部体温が上がってしまう状況をどう回避するかについて、競技の特徴やプレーする環境にあわせて考える必要があります。水分補給をこまめに行えば大丈夫といった単純な理解は危険です。

※)深部体温とは:人間の体温は、外部環境の影響を受けて変化しやすい外層温(表面温、外核温あるいは皮膚温と呼ばれることがあります)と、外部環境の影響を受けにくく一定している深部体温(核心温)とに分類することができます。深部体温は本来、直腸、膀胱、鼓膜、血液などで測定しますが、正確に測定することが難しいため、比較的深部に近い表面部位である脇下(脇窩温)や舌下(舌下温)による測定がよく用いられています。最近では、体表から深部体温を算出するセンサーや鼓膜からの輻射温を測定する赤外線耳式体温計などの登場により、スポーツの現場やご家庭でも、深部体温に近しい測定が可能になってきました。

深部体温はなぜ上がるのでしょうか

人間の体は、暑い時には発汗し、汗が蒸発することで生じる気化熱によって皮膚の表面から体温を効果的に下げるようにできています。また皮膚の下には毛細血管がたくさんあり、血液が循環することで体温を下げることができます。

 

では、なぜ血液の温度が上がるかというと、筋肉が収縮する時にエネルギー産生が起きて、この時に熱が生じるからです。この、筋肉が持った熱を外に逃がす役割を血液が担っているわけです。

 

熱は血液の循環によって体外に放散されます(血液は皮膚近くの毛細血管に伝わり、熱を体外に放出するとともに、冷たくなった血液が体内に戻ることで体の温度を調整します)。加えて、先ほど述べたように、汗として蒸発することでも熱放散されます。通常の環境であれば、このラジエーターのような体温調節の働きによって深部体温は37℃前後に保たれているのです。

 

ところが湿度が高い状態だと汗をかいても蒸発しにくく体から熱を奪えません。そうなると、運動による筋運動などで生じる熱産生量が熱放散量を上回ってしまい、深部体温が上昇していきます。結果として熱中症が発生しやすい状態になります。

深部体温が高くなってくるとどのようにパフォーマンスは落ちてきますか?

まず、わかりやすいところでは筋肉の反応が悪くなります。また認知機能や反射神経にも影響します。運動生理的に反応が鈍くなるので、頑張りがどうだとか、そういうレベルではなくパフォーマンスは落ちてしまいます。筋肉の反応だけでなく、認知機能なども落ちることから、「戦術に基づいてどう動くか」といった判断力の面でも当然クオリティが低くなってきます。どんなスポーツでも頭を使わないと良いプレーに結びつきません。反応が鈍い状態で練習しても、その人が上達するかというと大いに疑問が残ります。

プレー中に熱中症のサインを見抜けるか

練習中や、試合中に外から気づいてあげるにはどうしたらよいでしょうか?

残念ながら、これは非常にわかりにくいと思っておいたほうがよいでしょう。指導者をはじめ外部の人間が注意して観察していても、事前に発見するのは容易ではありません。実際には、おかしいなと思ってから、全然動けなくなるまでは、あっという間なのです。

 

例えば、気温32度、湿度50%くらいの環境で20分ほど走ると、だいたい深部体温は38.5度を超えてきます。それでも38度台ではほとんどの場合は、問題なく動けるはずです。これが39度台になるとだんだん動けなくなります。そして40度を超えると、一気に全く動けなくなってきます。

 

加えて、寝不足だったり、体調が悪かったりすると、非常に短いスパンで走れない状態まで陥ることがあります。これを見つけるのは本当に難しく、気づいた時には遅いということが多々あります。
当然今の時代の指導者であれば、夏の暑い時期には水分補給をこまめにとらせるでしょうし、おかしいと思ったら休ませないわけはないのですが、突然バタバタと多くの選手が体調不調になるような事例では、この急激な深部体温の変化が起こっている可能性があります。

そうすると周りだけでなく、選手本人の理解も重要ということになりますね

そうです。いきなりバタッとくるといっても、具合が悪くなっている時間はあるはずです。少しいつもと違うというのは本人もわかっているはずなので、深部体温が上がるとどうなってしまうかという本人の理解と、調子が悪い時に言い出せる環境が大事かと思います。「我慢する必要はない、我慢してプレーしてもパフォーマンスは上がらない」と、アドバイスできる環境を作ることが対策につながるはずです。

外から気づきにくいからこそ、予防が重要ですね。後編では予防についてお話をお伺いします。

ドクター紹介

加藤 晴康先生

聖マリアンナ医科大学卒(整形外科入局)。聖マリアンナ医科大学スポーツ医学講座講師、立教大学スポーツウエルネス学部教授、日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

 

U-16サッカー日本代表帯同(1996年)
北京オリンピック・男子サッカー日本代表チームドクター(2008年)
男子サッカー日本代表チームドクター(2018年~)