【応用編】いまさら聞けないストレッチの基本2|最新研究でわかったストレッチのQ&A
ストレッチはスポーツの基本です。けれども「痛いほうが効く」「運動前はじっくり伸ばす」といった昔の常識は、近年のスポーツ医科学の研究によって大きく変わりつつあります。前回はストレッチの歴史と従来の理論の成り立ちをまとめましたが、今回は最新の研究知見をふまえて、パフォーマンス向上とケガ予防に直結する「ストレッチの基本」を、Q&A形式でアップデートして解説します。
Q1. 運動前と運動後、同じストレッチをやっていればいいの?
A. 目的によって「動的ストレッチ」と「静的ストレッチ」を使い分けるのが、いまの考え方と いわれています。
運動前に動的ストレッチ(体を動かしながら伸ばす方法)を行うと、血流がよくなって体が動きやすくなり、走り出しの力(スプリント力)の向上やケガの予防につながることがわかっています。
一方、運動後や寝る前は、同じ姿勢を保って筋肉をじっくり伸ばす静的ストレッチ(止まったまま伸ばす方法)が向いているとされ、柔軟性が高まってリラックスし、疲労を回復しやすくなると考えられています。
時間の目安は、どちらも5〜10分程度から取り入れるとよいでしょう。
Q2. ストレッチは「痛い」と感じるまで伸ばしたほうが効く?
A. 逆効果になりかねません。「痛気持ちいい」と感じる範囲で、呼吸を止めずに行いましょう。
ストレッチで目指したいのは「筋肉がゆるやかに伸ばされている感覚」です。痛みは伸ばしすぎのサインと考えられています。
痛みを我慢したり反動をつけたりすると、筋肉が体を守ろうとして縮む伸張反射(伸ばされた筋肉が反射的に縮む反応)が起こり、かえって筋肉や腱を傷める原因になることがあります。
また、静的ストレッチは、20秒ほどのキープがおすすめです。
Q3. 最近よく聞く「筋膜(ファシア)リリース」とストレッチはどう違う?
筋膜(ファシア)は、筋肉や骨、内臓などを包む薄い結合組織です。筋膜は、隣り合う筋肉だけでなく、少し離れた部位にも力を伝えています。全身をつなぐネットワークのような組織だと考えられています。
筋膜が全身でつながっているなら、ある場所をほぐした効果が、離れた場所にあらわれても不思議ではありません。実際、ふくらはぎや足の裏をSMR(セルフ筋膜リリース。ポールやボールで自分の筋膜をゆるめるケア)でほぐすと、そこから離れた太ももの裏(ハムストリング)がやわらかくなり、足首も動かしやすくなった、という研究があります。
ストレッチが筋肉そのものを伸ばすのに対して、SMRは筋肉のすべりをよくし、動かせる範囲(可動域)を広げる準備として役立つと考えられています。とくに太ももの外側などをほぐすと、股関節の動きがよくなり、腰への負担を軽くすることにもつながるといわれています。
注意:筋膜には、痛みを感じとる神経(痛覚受容器)が多く通っていることが確かめられています。そのため、強い圧や鋭い痛みをともなう刺激は、筋膜の炎症(筋膜炎)や組織の炎症を悪化させる可能性があります。SMRは「痛気持ちいい」程度にとどめ、押して鋭い痛みがある場合は無理に行わず、専門家の評価を受けることがすすめられます。
Q4. ストレッチは「ただじっと伸ばす」だけでいいの?
A. 最近のケアやリハビリでは、筋肉に「力を入れながら伸ばす」動きも役立つといわれています。
近年注目されているのが、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮するエキセントリック収縮(筋肉が伸ばされながら力を出す動き)を使ったアプローチです。
その代表例が、別記事「アキレス腱のストレッチ6選|柔軟性を高めて動きやすい足元とパフォーマンスを引き出す」でも紹介した「段差踵落としストレッチ(ステア・ヒール・ドロップス)」です。アキレス腱症のリハビリとして用いられ、その効果を調べた研究もあります。スポーツの現場でも広く取り入れられています。
注意:勢いよく落とすのではなく、3〜5秒ほどかけてゆっくり自分の体重で沈めていくのがポイントです。
Q5. ウォーミングアップ(動的ストレッチ)の効果をさらに高める裏ワザはある?
A. 「わずかな重さ(荷重)」を体に加えて動くと、神経やバネの働きが活性化するといわれています。
ウエイトベストなどで軽く重さを加えて動くウェアラブルレジスタンス(身につけて行う荷重)が注目されています。
ウエイトベストを着けて短い全力走(ストライド)をウォームアップに取り入れると、脚のバネの働き(筋肉や腱のしなやかな弾み)が高まり、走りの効率(ランニングエコノミー)やトップスピードの向上につながった、という結果が示されています。
注意:手首や足首よりも、ウエイトベストなど体の中心に近い部分に重さを加えるほうが、関節への負担が少なく、フォームが崩れにくいといわれています。
Q6. ストレッチの効果を最大化する「呼吸のコツ」はある?
A. ヨガやピラティスでもよく語られる「360度呼吸」が、可動域アップとリラックス効果を高めるといわれています。横隔膜(おうかくまく)をしっかり動かす呼吸法です。
ストレッチの効果は、筋肉だけでなく呼吸の質にも左右されると考えられています。横隔膜は肺の下にあって、呼吸の主役となる筋肉です。これを前後左右に広げるように息を吸い、ゆっくり長く吐く360度呼吸を行うと、体幹が安定し、筋膜の張力が整うといわれています。これにより筋肉が伸びやすい状態になり、ストレッチで動かせる範囲が自然に広がる可能性があります。
また、副交感神経が優位になり、リラックス効果や疲労回復にもつながると期待できます。ストレッチの前に3〜5回行うだけでも、伸びる感覚が変わってくるといわれています。
参考文献
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- Fauris P, López-de-Celis C, Canet-Vintró M, Martin JC, Llurda-Almuzara L, Rodríguez-Sanz J, et al. Does self-myofascial release cause a remote hamstring stretching effect based on myofascial chains? A randomized controlled trial. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(23):12356.
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- Barnes KR, Hopkins WG, McGuigan MR, Kilding AE. Warm-up with a weighted vest improves running performance via leg stiffness and running economy. J Sci Med Sport. 2015;18(1):103-108.
記事監修・トレーナー

- 遠山 健太さん
- ワシントン州立大学教育学部小等学科卒業。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科修了。株式会社ウィンゲート代表取締役。全日本モーグルチームのトレーナーとして、トップアスリートのトレーニング指導に携わってきた一方で、子どもの運動教室「ウィンゲートキッズ」のプログラムを開発するなど、子どもの体力向上についての研究も行っている。家族体力測定イベント「マイスポ」で第11回健康寿命をのばそう!アワード(生活習慣病予防分野)の企業部門において、スポーツ庁長官優秀賞を受賞。著書に、『るるぶKids こどもの運動能力がぐんぐん伸びる公園 東京版』(JTBパブリッシング)、『コツがつかめる! 体育ずかん』(ほるぷ出版)などがある。